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作者不詳 パステル 《鳥の歌》

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カザルスに「鳥の歌」という名演奏がある。
この絵を見るたびに、私(筆者・高見)はカザルスの「鳥の歌」を思い出すのである。絵と曲とは、無論、関係ない。
40年と少し前、私は長い闘病生活(白蝋病=学名は振動障害)の後、由布院の町の老舗旅館・亀の井別荘の庭内にあった喫茶店「天井桟敷」で働くこととなった。その喫茶店は、筑後地方の酒蔵を移築した古民家で、その二階部分と天井裏に改装を施して喫茶部門としていたのである。その壁面には本棚が埋め込まれ、ぎっしりと書籍が並んでいた。文学はもとより、音楽・美術・骨董・料理・批評・旅の本など、そのジャンルは多岐にわたり、いずれもこの屋敷の主の学識・教養を示すものであった。そしてその一番奥にタンノイのスピーカーがはめ込まれ、重厚な音を鳴らしていた。客席の主テーブルは、直径3メートル、厚さ15センチもある酒樽の底を利用したもので、その丸いテーブルを囲んで、旅人や音楽家、画家、詩人、作家などとともに地域づくりの運動家や地元の若者が集った。そこが「湯布院・町づくり」運動の発信源となり、拠点となったのである。私は珈琲を淹れながら彼らの声に耳を傾け、その論客たちの気勢を身に浴び、知識を吸収した。そこにあったレコードは片っ端から聞いたし、暇があれば本棚の横の席で種々の本を読み耽った。5年間の闘病生活の空白期を埋め、未知の領域に踏み込んでゆく楽しさがあった。夜が更けると、私は客たちに亭主自慢の酒を運んだ。そしてカザルスの演奏によるバッハの「無伴奏チェロ組曲」のシリーズを低音量で流し、時には「鳥の歌」もかけた。論客や酔客たちは、その天井から降ってくるような音に耳を傾け、その音の聞こえてくる方角をふり仰いだり、頷きながらまた会話に戻っていったりした。

この絵の作者は不詳。旧・後藤洋明コレクションが由布院空想の森美術館に「画中遊泳館」として展示・運営された時期があり、その後寄付していただいたものである。後藤さんと画中遊泳館・きまぐれ美術館のことなどは別の機会に語ろう。絵の右隅に印が捺してあるから、調べれば分かるが、今は作者のことを知る必要はない。

「鳥の歌」を実際に聴いたのは、「ゆふいん音楽祭」に出演した上村昇氏の演奏であった。上村さんは、当時、チェリストとして活動を始めて間もない時代だったが、すでに海外での演奏経験や受賞歴もあり、重厚ながらのびやかでふくらみのある音を響かせた。初期のこの音楽祭の実行委員として活動していた私は、いつもは楽屋裏で出演者たちの演奏をきくのだったが、この曲が始まる前に客席へ出て、一人の聴者として聴いた。そして、カザルスとはまた違った、日本人の繊細な感性による、たとえばセロ弾きのゴーシュが深夜に動物たちとともに奏でた音楽のような、夜の森の静けさに通う響きを受信したのである。
「鳥の歌」はスペイン、カタルーニャ地方の民謡であり、キリストの聖誕を鳥が祝っている様子という。この曲は、同地方出身のチェロ奏者で作曲家でもあったパプロ・カザルスの編曲・演奏によって、世界的に知られる名曲となった。カザルスはチェロの近代的奏法を確立し、深い精神性を感じさせる演奏で、世界の音楽愛好家の支持と称賛を得た。1971年、国連の世界国際平和デーでの演奏で、アンコールに応えてこの曲を演奏したカザルスは、「私の生まれ故郷カタルーニャの鳥はpease、peaseと鳴くのです」というメッセージを発し、多くの共感を集めた。このころ、スペインは内乱が続いており、時のフランコ独裁政権に抗議してピカソが描いた「ゲルニカ」は世界に衝撃を与え、カザルスの「鳥の歌」とともに内乱を終結へ導く旗印となった。芸術が、戦争を否定し、真っ向から論を挑み、戦争という人類のもっとも愚かな行為を収束させる例を、私たちは目撃したのである。

<ジャンル>絵画
<技法・材質> パステル 紙
<作品寸法(cm)>17.0 × 22.0
<所属>後藤洋明コレクション
*備考
・画面に亀裂があります。 
・送料は別途(地域別)計算となります。

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